消えたものたち

イベントに出す本もしおりも入稿したし、直近の仕事も終わったので休む日にしようと決める。とはいえ子どもはそんな事情は知らないから、前々から入ってみたかったコーヒースタンドを10分足らずで後にする。席についていたその10分足らずのあいだに、紫陽花を自転車の前カゴに入れたおばあさんがガラスの向こうを通っていった。知らない人の生活に思いを馳せる。こうしていればいいのだと思った。

出かけた帰り、昨日行った英語教室が電車の窓から見えて「先生もう寝てるんじゃない」と上の子が言った。ただの貸し教室なのだが、子どもはそこに先生が住んでいると思っているらしい。「でもどこにベッドがあるんだろうね」と大真面目に言っていた。

消えた言葉、消えた空気、消えたひかりのかたちの上を今日も生きている。